以前に話題にした中央省庁のFAX廃止問題ですが、どうもその後の報道によると各省庁から400件以上の反対意見が寄せられ河野大臣は事実上断念したようです。誠に残念なことです。その反対意見にはなるほどと頷く部分もありますが、ちょっと待ってくださいと言いたくなる部分もあります。

 主な反対はセキュリティ上問題が多いというものだったようです。特に反対の声が大きかったのは警察と医療関係でした。確かに双方とも内部的にはデジタル化が進んでいますが、組織内部でクローズドなイントラネット方式で外部とのやりとりは機密保持上FAXに限っていますよということのようです。確かにインターネットに接続しないクローズドなシステムならネットを介して情報漏洩やマルウェアなどのサイバー犯罪の被害にあう可能性は少なくなるでしょう。しかし0ではないのです。そこを勘違いしてはいけません。クローズドなシステムでも犯罪者は必要なら違法に物理的な接続を行い情報を窃取したりマルウェアを入れたりすることは可能なのです。またFAXといえども情報を電気的に符号化/復号して通信する訳ですから必要な技術を持った者が違法に盗聴して情報を窃取することは可能であり、現に米国NSAを始めとする各国通信情報機関が各国政府の電話FAX通信を盗聴しているのは諸報道で周知の通りです。また単純なことですが誤送信の恐れというのはメール同様です。要はFAXだから保秘上安全ですというのは程度問題であり、悪い言い方をすればためにする議論だということです。結局は完璧な秘密保全は望めないのですから、保秘上のリスクと必要十分な対策のコストとネット化によって得られる便益とのトレードオフを総合的に判断して選択されるべきものだと思います。安全のことだけを考えれば各組織がクローズドしていた方がより安全でしょうがそれでは社会的な便益や発展が得られないということです。

 またこの議論の根っこには民間の秘密保全はそれほどでなくてもいいが国の秘密保全はより厳しくなくてはならないという一種の官尊民卑思想があるような気もします。今や民間でもネットワークセキュリティは重大な問題であり、昨今コロナ禍等による環境の変化によりゼロトラスト等の施策が議論されているように、オープンなネットワークのセキュリティ向上を社会全体として講じていくべき問題だと思います。

 別の議論として、コロナ対策で大変な現場に今現在機能している環境を変えるような余計な負担はさせたくないといったものもあり、これはまあそうかなという気もしますが、要は改革のスピードの問題という気もします。

 FAX廃止は事実上断念されたわけですが、このように私はそれがベストアンサーだとは思っていません。今後改革が前進することを期待しています。FAXはアメリカでもフランスでもドイツでもまだまだ使われているといった意見もあったようですが、正直後ろ向きですね。我々が比較対象とすべきはフィンランド、エストニアといったIT化先進国こそではないかと思います。

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